業界初のライド型通信体感競馬ゲーム
開発裏話
身も心もジョッキーになるゲーム。
ここまでプレイヤーに激しく運動させるVRマシンはやっぱりかつてなかった。馬にまたがり、手綱を握る。プレイヤー自身が思いっきりあぶみを前後に動かしながら馬を走らせる。4台の馬が通信で結ばれ、コンピュータの馬と合わせて8頭でのレースを展開。目の前の大画面では、プレイヤーの動きを受けて、それぞれの馬のリアルな走りが映し出されていく。
マシンの「奥行き」を広げるハードウェア技術
どこまでもパワフルに3DCGを描画。
競馬ゲームに搭載されてデビューを飾った、最新ポリゴン基板。何頭もの馬が画面上をリアルに動くのは、この基板の描画性能の仕業。独自のデジタル技術から生まれた基板、そして二重三重に施されている電磁波対策について語ってみよう。
digital
新型ハード基板誕生。
大画面に流れるように描かれていくリアルな3D映像。これを処理しているのは、かなり高速なCPUなのだろう、と思った人も多いかもしれない。VRマシンでは確かに、高速なチップに頑張ってもらう手もあることはある。しかし当社では伝統的に、普通レベルのCPUと、それを強力にカバーするカスタムICを併用する方向を進んできた。97年にこの世に出た最新基板ではRISCタイプのCPUを採用しているが、クロック周波数は166MHz。決して「速い」とは言い切れないレベルだ。ただ、そのかわりに描画回路が圧倒的に優れているのである。VR系のマシンでは、プレイヤーの動きに応じて自在に画面とサウンドが展開される。通常、1画面の表示は1/60秒だ。馬などのオブジェクトは、ポリゴンモデルとして作られ、ROMに座標数値データとして蓄えられている。これを仮想空間上に配置し、回転を加え、さらに描画回路に渡って実際の画面データに変換。テクスチャーマッピング処理などを経て、質感豊かな三次元映像が創り出されていく。これら一連の処理をすべて1/60秒以内に終えなければいけないわけだが、新型基板は馬8頭分のリアルな描画を楽々と行ってしまう。そして次期新基板では、描画性能がさらに2倍に引き上げられる予定だ。
analog
電磁波対策にもとことんこだわる。
アーケードマシンでは、製品ごとに独自の電気制御部分の設計・検討が必要になってくる。たとえば、仮想空間での動きを創り出すためにプレイヤーの自由な動きそのものを読み取ったり、スピーカーで実況音を出したり。そうしたアナログ的な部分を担当しているのが、電気チームである。また、新型基板は、速くなったならなったでまた別のテーマを電気チームに与えてしまった。電磁波対策である。電磁波に対する人々の関心度は高まり、その基準も確実に厳しくなってきている。基板が高速化したり、画面描画が激しくなれば、そこから発生する電磁波もより大きくなってしまう。新型基板は高性能であるがゆえに、電磁波対策が難しい基板だった。そこで、基板のグランドパターンの再検討、EMIフィルターやクランプフィルターの活用などによって、電磁波の問題をクリア。電磁波対策の理論はある程度確立されてはいるのだが、実際はまだまだノウハウの世界にあり、試作をしてみてはデータを取るというカット&トライの中での作業になった。当社はこと安全対策については、いつでも、やりすぎるぐらいに基準をクリアしてきた会社である。安全第一の考え方は、社風としてずっと受け継がれているのである。
マシンの「実感」を創り上げるメカニカル技術
ジョッキーを体感させるメカ的仕掛け。
このゲームは、業界で初めての体感型競馬マシンだ。ジョッキーになった気分で激しくカラダを動かす。プレイヤーをジョッキーにしてまう本体には、今回新たに開発されたメカ機構が光り、その周囲にも様々なメカ技術がふんだんに盛り込まれている。
mechanics
考えに考え抜いた末の乗馬メカ機構。
アーケードマシンの場合、同じような製品を二度つくることは珍しい。新製品開発とは、今までになかったマシンづくりを意味し、その都度、新しい機構を考案することになる。そうした新機構づくりの中心にいるのが、メカエンジニアだ。とくにこのゲームの場合、実際の乗馬に近い操作で動くようになっている。実ははじめの機構では、本体の下部に支点があり、本体が前後に倒れるような仕組みになっていた。しかし、これではプレイヤーが激しく動いた時、筺体全体がズレ動いていってしまうのである。とりあえず重りをつけてみたが、その程度ではやっぱり動く。そこで、また新しい機構を考案した。本体下部の支点とは別に、本体の前側にリンクアームをつけて2カ所に支点を設ける。これによってもっと上の方に新たな仮想支点ができる。さらに、本体をレールの上に載せ、レールの上を前後するようにした。こうして問題点をクリアすると同時に、今までよりも速く軽く動かせるようにしたのである。リンクアームはアーケードマシンには初めて使用されたメカ機構で、その後に特許も取得した。
method
安全率200%の中での冒険素材。
ところで、このゲームの本体デザインには、これまでのアーケードマシンと決定的に違う点がある。アーケードマシンは不特定多数の人が多頻度使用するため、安全性が高く、頑丈なつくりでなければいけない。そのため、FRPのような耐久性の高い材料を使い、ずんぐりむっくりとしたデザインになることが多かった。けれども、この本体は「馬」という生き物で、顔がなければ気持ちが悪いし、何よりも“らしさ”も出ない。そんな考えから、顔や鞍の部分については、思い切ってスラッシュ成形という手法を試してみることにした。スラッシュ成形は人形をつくるときなどの工法で、材料は塩化ビニール。一旦成形した後に、ひとまわり大きな型に移し、発泡剤を混ぜて形状を整えていく。この発泡剤の料や種類によって仕上がりが異なってくるのである。耳はとがっているものの、激しくゲームをやりすぎてぶつかっても怪我をすることはない。また、手で曲げてみても、弾力性があって折れてしまう心配がない。何気ないことのように見えるかもしれないが、アーケードマシンとしては実は大冒険であり、新しい方向性なのである。
マシンの「表現力」を決定づけるソフトウェア技術
Cで8頭の馬を自由自在に操る。
新基板は、プログラム開発にも革新をもたらした。高速化が図られたために、1/60秒の間に処理できるプログラムステップが急増。複雑な動きも十分に可能になり、馬の動きをよりきめ細かに、より柔らかく表現できるようになったのである。
software
複雑な馬の動きをリアルに描き出す。
このような体感マシンでは、プレイヤーの操作からデータを得、スピードや加減速、位置などのデータをもとに、ヒットチェックのような他のオブジェクトを制御する関数が呼び出される、という仕組みになっている。その一連の処理が1/60秒で行われ、レースが進んでいくわけである。こうした流れるような動きの根底にあるのが、オブジェクト指向プログラミングの技術だ。また、このゲームでは、新型基板の採用によって処理速度が上がったため、1/60秒の間にできるプログラム的な処理が大幅に拡大した。たとえば、1頭の馬には40~50の間接点があり、これを支点として座標を計算し、馬の動きを描き出している。従来は、回転のパターンを全部用意しておいて、馬のモデルを書き換える手法をとっていた。もし、従来の基板でこれだけの複雑な処理を行おうとすると、2頭までで限界に達してしまう。だが、このゲームは、8頭の高繊細な動きをきちんと描き出す。新型基板の登場は、ゲームそのものの「表現力」を大きく広げ、制約が少なくなった舞台で、ソフト技術者は自由にプログラムを考え、開発できるようになったのである。
communication
8頭だて、4台通信のテクノロジー。
通信機能を持ち、最大4台での同時プレイが行えることもこのゲームのセールスポイントの一つだ。A~Dまでの4台の本体にはそれぞれの基板がある。一つの本体で、プレイヤーが操作している馬と、コンピュータが操作する馬の2頭を受け持つ。こうして8頭でのレースが実現するのである。通信はA~Dまでリング状に結ばれ、Aは自分の受け持ちの2台の馬の状況をBに伝え、さらにBからCへ、CからDへというプロセスを経てAへと戻ってくる、データのやりとりは非同期で行われ、座標、モーション番号、スピード、スタミナなどの情報を50~60バイトのデータ量で通信していく。データが届かなければ、その前の段階での位置やスピードなどから、『次の画面ではこの辺にいるはず』という予測を行って表示していく。こうした通信環境のもと、途中でAとBが衝突すれば、その様子はAとBの画面にはもちろん、CとDの画面にも瞬時に反映されていく。こうして、あたかも8頭でレースをしているような感じをつくりあげているのだ。
仕事は楽しく、それが当社です。
ここまで、競馬ゲームの開発を中心に本文を展開してきた。紙面を通じて、技術力や製品開発力、そして1人1人が楽しみながら仕事に取り組んでいる雰囲気もわかってもらえたと思う。当社には“WILL MIND”という考え方があり、誰もが“MUST”ではなく、“WILL=この仕事がしたい”という自発的な姿勢で仕事をしている。好きだからこそ、ここまでできる。そんな気持ちが、すべての基本なのである。