援助を通じて相手国から何を得るか

 入団して12年。いろいろな職務を経験して感じるのは、国際協力というのはただ単に一方通行の援助を行うだけではいけないのではないかということです。援助を通じて相手国側からも何かを得るという“相互協力”が大切なのではないだろうかと考えています。私自身はこの“相互協力”に日本の国際協力の中核があるように思います。日本という国は、いろいろな要因から異文化が入りにくい環境にあります。しかし、国際協力という活動の中では、国内では得ることができない文化や民族性などを発展途上国という原点から学ぶことができるのです。そして学んできたことを、多くの日本人に伝え、生かしていく。そうして相互協力が成り立つのです。

文化と民族性
パナマ事務所で得た大きな財産

 平成2年2月からパナマの在外事務所に赴任しました。パナマではインフラ整備などのプロジェクトが進められていて、ここで仕事をひととおり学びました。同時に現地の人々との交流から得たものも少なくありません。一例をあげると、現地で交通事故に遭遇し、同行のスタッフが重傷を負ったんです。すると事務所の職員や運転手が、現場での交通整理や救急車の手配はもちろん、荷物が紛失・破損しないように自動車から降ろしたりと、的確な判断と行動をとってくれました。また、ラジオでは緊急輸血のための献血の呼びかけまでしてくれたんです。こうした経験は私の財産ですし、その後の職務にも大いに生かされています。

不可欠の人間性
途上国の個性や価値観を大切にする

 発展途上国には、もともと彼らが持っている豊かな文化や民族性があります。その文化や民族性、価値観などを大事にして、発展させていくような援助活動が大切だと思います。そのため、団員は技術や語学に精通しているだけではダメで、常に好奇心をもって職務にあたっていくこと、そして人に優しく、人の優しさを感じ取れるような人間性が必要です。また私は現在、法務室に所属し、内部規定の整理などを担当しています。当団では国際援助活動が目立っていますが、その資金は国民の税金を使っているわけですから、実は事務系の仕事も重要です。法律を基本にしながらも、柔軟な対応ができる事務スタッフをめざしていこうと考えています。

社会基盤の開発援助
相手国に適切な援助を行っていく

 入団して最初に担当した仕事が、社会基盤の開発の調査です。道路や橋梁、空港の建設など、交通網の整備を中心にとしたプロジェクトを担当。既存の空港をどう生かし、またどのように機能を拡張していくかなど、外部のコンサルタント会社などと一緒に考えながら進めていくわけです。また、相手国側の要望を受け止めながら、日本ができることを示し、調整を図っていきます。プロジェクトの規模は数百億円クラスですから、相手国が返済できなくなるようなことのないように計画を立てる必要があります。結局、この部署では、半年の間に8回の海外出張をしました。いろいろな国を見て、多くの政府と折衝した経験は、今の仕事にも大きく役立っています。

援助の効果を評価
外務省に出向し、国別評価を担当

 その後、平成2年からは外務省に出向しました。日本の国際援助が有効に使われたかどうかを評価していく仕事を担当していました。これは内部で評価する場合と、外部の有識者に評価してもらう方法と2つあります。私は、大学の教授と一緒になり、ケニアの国別評価を担当しました。国別評価というのは、たとえばケニアならケニア一国だけを対象にして、日本が今まで行ってきた援助を評価をしていくというものです。国別評価はまだまだ固まった手法がなく、どういう評価をすればいいのかを考えるところから始まりました。そして、最終的に報告書を作成。その要約が、毎年、外務省から出されているの経済協力評価報告書に掲載されるわけです。

調査研究の重要性
リーダーシップが求められている

 私は現在、国際協力総合研修所の調査研究課というセクションに籍を置いています。ここでは、国別分野別の援助研究、技術協力の手法研究、そしてセミナーや国際会議の開催といった業務を進めています。それまでに、いろいろな部署での仕事を広く担当してきたので、調査研究のために総合的な視点から考えていくという点で経験が生かされています。また日本には、途上国に対してただ援助をするというだけでなく、先進国の中でもイニシアティブを発揮して援助活動をしていくことが求められています。そのためには、アイデアや発想といったところが重要になってきますが、調査研究課はその戦略的な部門であり、重要な位置づけにあるといえます。