誰でも簡単にできる
ゆで麺機というようなものを
おたくでつくれんかのう。
時は昭和40年代、ある日の意外な訪問者
それは、ある人物が当社を訪れたことから始まった。まだ世界中のどこにも存在しない「ゆで麺機」なるものを造ってほしい。そんな難題を伝える訪問だった。当社はもともと建築板金の会社で、主に屋根のトタンやトヨから厨房製品まで様々なモノを造っていた。その当社の社長の腕を見込んでの依頼である。
当時はどこの中華料理店でも、大きな中華鍋で麺をゆでていた。鍋の中の麺がゆで上がらないうちは、新たに麺を追加できず、後から来店したお客さんはラーメンが出てくるまで長く待たされた。これをどうにかしたい。さらに、その頃は脱サラがブームになっていて、飲食店を独立開業する人が増えていた。誰でもゆでられるゆで麺機がほしい、という要望だったのである。
まず考えたのは、ザルを使って1玉ずつ分けてゆでることだった。これなら後から麺が追加できる。ただ、麺は大量のきれいなお湯でゆでたほうが美味しい。連続的に麺をゆでていく中、だんだん濁ってくるお湯をどうやって取り替えるかという問題もあった。これについては、余熱を利用して暖めたお湯を少しずつ鍋に足しながら、一方で汚れたお湯を排水していくという画期的な仕組みを考案した。こうして、あとあと当社が業務用厨房機器のメーカーとして成長していく第1歩となるヒット商品「ゆで麺機TU-1型」がカタチになったのである。この製品があったからこそ独立開業が成功した、という人々は計り知れない。今では、そば、うどん、スパゲティなど、麺と名が付くものほとんどが、この方式のゆで麺機で調理されている。
その後、次々と誕生した世界初と業界初
ゆで麺機と時を同じくして、もう一つの世界初の製品が生まれた。今でこそガスレンジの周辺部分はステンレス製だが、以前はステンレスといえば高級品であり、鋳鉄が使われるのが普通だった。鋳鉄は錆びる。だから、1日の業務を終えた後に、砥石でピカピカになるまで磨き上げるのが、見習い調理人の日課だった。が、人々の生活が豊かになるにつれ、そうした過酷な労働環境を向上させる動きも出てきた。この過酷な労働を少しでも軽減させたい。そう考えた当社では、ステンレス製のガスレンジを開発した。高級品のステンレスを使うことなど誰も考えもしなかったが、そのアイデアが功を奏し、ゆで麺機以上の大ヒットとなったのだ。
しかし、資金力のない個人経営が多い飲食業界で、どうして高価なステンレスを使った製品が爆発的に売れたのだろうか。米国製のパンチプレスという最新設備を活用することでカバーしたのである。パンチプレス、つまりもっぱら金属の板に穴をあけ使われていた機械を、穴をつなげれば線になるというユニークな発想で“切る”ことに使う。その結果、少ない人員で速く製作し、生産コストを下げ、安い値段でステンレス製ガスレンジを提供することに成功したのである。
当社の歴史は、どこかに困っている人がいたら、今までになかった新しい製品をつくって問題を解決するという歴史でもある。その意味では、自らマーケットを創造してビジネスを広げ、成長を遂げてきた会社といえるだろう。30年前に10数名だった社員も、今ではおよそ1000名になり、売上高は260億円に達している。しかし、厨房業界のトップメーカーとしてのポジショニングを築いた今も、そして将来も、当社のモノづくりへの情熱は少しも変わることはない。
水のカナヅチ?
それもきっと、
当社の特許なんだろうか。
ウォーターハンマーで、汚れをたたき落とす
ゆで麺機に始まる当社の歴史を知ってもらったところで、一気に最新の開発製品へと話題を移してしまおう。厨房機器というとどうもレンジや流し台のイメージが強いが、実は当社では先端技術をふんだんに使った機器・システムも開発しているのだ。その一番手としてあげられるのが、1度に1万数千食分もの食器を自動で洗浄する大規模な食器洗浄システム。学校などで使われた食器を専用の篭に入れてトラックで運んで来て、篭ごと洗ってしまうものだ。ウォーターハンマー現象を利用して、食器に水をたたきつけ、汚れをたたき落とすという仕組みになっている。
実は、このシステムを開発には、構想から5年の期間を費やしている。篭ごと食器を洗浄するという発想をヒントに、どんな形の篭に、どんな風に食器をセットし、どのように洗浄すれば汚れが落ちるか、という試行錯誤を繰り広げていった。最終的に食器と食器の隙間を5センチにすると洗浄効果が高いことがわかったが、それまでに篭だけでもざっと300~400個は試作したほど。こうして誕生したシステムは、洗い場の重労働を開放し、45人で行っていた作業を18人に省人化。すでに給食センターをはじめ、関東周辺でおよそ10セットを納入している。
さらに地球を汚さない洗浄システムへ
最近、地球環境に配慮したエコロジー製品が注目を集めているが、当社でも地球に優しい製品づくりには頑張っている。洗剤を含んだ排水は河川や海水の汚染するため、最新型では洗剤を一切使わずに洗浄するシステムになっている。まず、電解水生成装置を活用して、水道水をアルカリ性水と酸性水に分解する。アルカリ性水は胃カメラの洗浄にも利用されているほどで、洗剤と同様の洗浄効果を持っている。このアルカリ性水を超音波洗浄機の洗浄水として使うことで、たんぱく質や油脂といった汚れをきれいに落とせるのだ。その後、酸性水で消毒除菌をし、最後に酸性水を洗い流していくのである。
また、ゴミの処理も大きな社会問題の一つである。当社では、バイオテクノロジーを駆使して、生ゴミを水と炭酸ガスに分解するシステムを開発した。ごはんやパンなら3~6時間、分解しにくい肉や卵の殻などでも2~3日で処理できる。業務分野の生ゴミ処理に一つの解決策を示したわけである。
食材の鮮度、その常識は塗り替えられた
飲食店なら必ず冷蔵庫があり、生鮮食品が保存されている。ただし、冷蔵保存していても、数日で変色したり、鮮度が損なわれたりしてしまう。もう少し長期の保存が可能なら、材料のロスも少なくなるはずだ。そうしたニーズに応える形で開発された製品は、静電気を利用した新方式の冷凍・冷蔵庫で、肉や魚、野菜なら通常のほぼ2倍の期間の保存を可能にした。保存という点でも画期的だが、食材の流通という点でも大きな変化をもたらすことになるかもしれない。
今まで紹介してきたように、当社では厨房のニーズにきめ細かく応え、時代の動向に敏感に反応した製品を次々と送り出している。空港の整備工場など、夜間に大量の食事を要する施設をターゲットにした“温かいお弁当の自動販売機”や、消防基準の厳しい施設内でも利用できる電磁タイプで本格中華料理の強火を実現したレンジ製品も生み出している。それに世の中ではお米を炊いてご飯にして供給するニーズが高まっているが、そんなニーズに応える大型の業務用炊飯器も開発済みだ。5升の釜を3つ装備していて、一度に15升のご飯が炊けるのである。大量のご飯を炊くため、釜の中に温度のムラが出てしまって焦げたりしていたが、釜のサイズや形状を徹底的に研究し、ムラなく炊けるようにしたのである。
当社の開発活動には、電気やメカのエンジニアのほか、4名の調理師・栄養士も加わっている。調理という側面から機器開発に参加し、製品が納品されれば、機器の操作説明などで日本全国のユーザーのもとへ飛んでいく。他のエンジニアも社内に閉じこもっているわけではない。開発には、あらゆる技術分野の知識、そして調理のことまで幅広い知識が必要になる。ちなみにガスといっても、地域によってガスのタイプが違うから、同じ機器でも料理の仕上がりは変わってくる。『ホテルレストランショー』をはじめとする展示会、ユーザー、工場など、どこへでも足を運び、見聞を広げる。そうでなければ、新しい機器、役に立つ厨房機器は開発できないのである。
本当はこんなに大雑把じゃないけど
とりあえずの
「厨房をつくろう」講座・ビギナー編。
厨房全体をトータルに考えていく
当社は、厨房全体をトータルに手がけている会社である。時には店舗全体のコンサルテーションにまで及び、飲食店で何か困ったことがあったら、何でも当社に相談すればいいというイメージさえ持たれている。社内には技術室のほか、製造、設計、営業というセクションがおかれ、それぞれ横の連携を保ちながら厨房をトータルに提案していくわけである。
一般的なプランニングの流れはこうだ。営業スタッフが飲食店の新設や改装などの情報をつかみ、商談を進める。先方の建築図面をもとにし、オーナーの店舗計画、メニューや規模などを聞きながら、ラフな厨房デザインのイメージを創り上げていく。そうした営業の情報をもとに、今度は設計スタッフが厨房全体の詳しい設計を施し、図面を作成していく。その店特有の特注の厨房機器が必要な場合は、開発セクションに依頼が出され、開発活動が展開されていく。
たとえば、レストラン谷口なんていうお店があったとする
では、厨房全体の提案は、どんな風にしたらいいのだろうか。飲食店といっても、和、洋、中、それも高級レストランから、ラーメン専門店、社員食堂、大規模チェーン店など、数え切れないほどの業種があり、いろいろな考え方を持ったオーナーや料理人がいる。それぞれのスタイルによって理想的な厨房は変わってくるわけだ。
一般的な例として『洋食レストラン・谷口』というお店があるとする。オーナー兼シェフのご主人と、奥さんの2人で切り盛りし、ランチタイムとディナータイムだけの営業で1日60食を出している。敷地面積は8m×9mの72㎡。
厨房の適切な面積は、客席の40~50%程度といわれている。1食あたりの厨房面積は0.35~0.45という統計もあり、これを当てはめると60食×0.4で24㎡ぐらいがちょうどいいことになる。6m×4mで50%の24㎡が確保できるから、厨房のスペースはこれでいい。
さて、次はスペースをどう使うかである。調理は、食材の保管から始まる。そこで裏口の近くに食品庫セクションを設け、保管庫や冷蔵庫などを設置する。続いて、下処理セクション。材料を切ったり洗ったりするスペースで、シンクやテーブルが必要になる。調理セクションでは、中華と洋食ではガスレンジの火力が違うように、最適な機器や広さお店のスタイルで変わってくる。その後は、ディッシュアップセクションで盛りつけられ、ドリンクなどをつくるパントリーセクションを経て、客席へと料理が運ばれていく。食後には食器が厨房へと戻され、洗浄され、食器棚に保管される。このようにして食材や食器の動線を考え、一つ一つのセクションの作業がスムーズになるように機器の配置を検討していく。うまくいかなければ何度でもやり直し、ベストのゾーニングを完成させていくのである。
オーナーのコンセプトを確実に読みとる
メニュー構成も重要な要素になる。メニューが多ければそれだけ食材の種類が多くなり、保管庫も大きくなければいけない。細かくいうと、野菜や果物は皮を剥き、魚介類は食べない部分のほうが多い。逆に乳製品や穀物類は捨てる部分が全くないという具合に、材料によって可食率は違う。どんな食材を多く使うかで、保管庫の容量も変わってくるわけだ。
こうしてありとあらゆる要素をもとにプランニングしていくため、設計には電気やガス、給排水の設備工学、建築工学、人間工学、デザイン工学など、広い技術分野の知識が必要になる。営業スタッフも、飲食店運営や料理の知識は欠かせない。窓に網戸がなければいけないとか、厨房内に手を洗う流しがなければいけないとか、食品衛生法や消防法の規則もある。
それから、できるなら、流行っているメニューやデザインなどもユーザーに提案してみたい。相手は職人肌の人たちだから、新人の提案など受け入れてくれないかもしれない、でも、製品知識を吸収し、経験を積むにつれ、必ず信頼関係が築けるようになる。そうなるともう、転勤で担当エリアが変わっても、新しい注文の電話をくれてしまうほど、仲良くなれるので覚悟しておこう。