ハイテク複合技術で心の豊かさを提供するクルマづくり

経営ポリシー
経営理念について

「三つの考え方を重視しています。第一は、現実直視の姿勢です。たとえ話をすると、熱が出たらすぐ風邪薬、的な発想は戒める。発熱の原因は腸のせいかもしれず、そのときは、腸の薬を飲まなくてはいけません。事実を再認識しないまま軽率に対策を考えると間違う。何が事実かみんなで認識しあう姿勢が、仕事を進めていくうえで必要です。
 私は社長就任以来、時間の許す限り国内工場、欧米の工場や販売会社、提携先を回ってきています。これも、経営者として現状認識を高めたいという意図からの行動です。
 第二は、経営は心、ということです。会社経営というものは、トップがどんなに努力してみても、社員一人ひとりに心を一つにして頑張る気持ちがないと、成果は出ません。ですから、自分の殻、持ち場に閉じこもらず、いうならば、自分の庭だけ掃こうとせず、他人の庭まで掃くという心がけが大事なのです。
 この点に関して、私は工場の現場に足を運んで、係長・主任クラスと膝を交えて対話を繰り返しています。その中から、社員全体の連帯感を醸成するよう努めています。
 第三は、ユーザー第一主義です。メーカーとして良いものを作ろうとするのは当然ですが、良いものとは、設計者、技術者、また販売する者の自己満足であってはいけません。その尺度はお客さまの満足度でなくてはならないのです。
 コスト競争を勝ち抜くことは、ユーザーの満足を得るための前提ですが、ここでいうコストとは単なる製造原価ではありません。組織全体の生産性が問題なのであり、経営のムダを省けば、間接的に原価も下がります。そうした気持ちで、社員みんながユーザーのためのクルマを提供していかなくてはいけません」

中期戦略
どのような経営戦略で
臨まれていますか

「平成七年度は、1$=八〇円を切るほどの円高で幕開けしました。今後も、為替動向の好転を望んだ経営はできません。また業界内では、低価格化や、欧米メーカーの積極的な日本市場への進出、RV車の伸長など、さらに市場環境や需要構造が変化しようとしています。
 こうした中、当社は平成七年度上期で売上高、営業利益の増収増益を果たし、七年度下期では経常利益も黒字化を達成する見通しです。大きな課題であった、円高基調のもとでの収益体質を確立しつつあります。今後も現状の為替動向に左右されることなく、十分な収益が確保できる企業体質づくりが基本課題になります。具体的には、『販売計画達成のための戦略と体制の強化』『固定費の削減と原価低減』にさらに取り組み、損益分岐点を可能な限り低下させること。そして海外部門については、市場別に細かい戦略を策定し、収益体質を強化する。また『米国事業の自立採算化』を実現していきます。
 もう一つはチームとしての中長期的な課題を明確にしていくことです。常に二〜三年先、あるいは五年先までを読みながらことにあたる。とくに商品力の強化と適切なマーケティング戦略がすべての基本であり、差別化、高付加価値、高品質をキーワードにした当社らしい商品戦略を展開していきます。そうして、国内外における当社のポジショニングをさらに確固たるものにしていく考えです。 このほか、産業機器や輸送機器、航空宇宙など、全部門にわたって筋肉質な企業体質づくりを進めていきます。

技術開発
独創的な技術には
定評がありますね

「技術的には、伝統が生きています。水平対向エンジンなどの優れたユニットをいくつも持っていますし、数々の独創的な技術を業界に先駆けて実用化してきました。たとえば当社独自の技術で、前輪側に35%、後輪側に65%のトルクを配分しつつ、μ値の低い路面やタイヤのグリップが失われたときには、瞬時に判断して前後輪のトルク配分を最適に制御するものがあります。高い安全性とスポーティな走りを求め、エンジンパワーを確実に路面に伝えるという本来の役割に加えて、FRに勝る旋回性能を実現しました。こうした技術に対するこだわり、その先進性、先取り精神が個性的な企業イメージを築き上げ、ユーザーに根強い人気を博しています。
 ただ、私としては、そうした個々の優れた技術は、全体の事業サイクルの中でもっと有効に生かしていけると思うのです。水平対向エンジンを例に取るなら、上下に薄いという特徴ある形状を持っていますから、これは自由度の高いデザインへと結びつけていけるはずです。そのへんの工夫に、さらに力を入れていきたいと思います」

非自動車部門もお持ちですが。

「航空宇宙事業部門、産業機器事業部門、輸送機器事業部門があり、そのうち航空宇宙事業部門では国際共同作業で開発している次世代旅客機や、国家的なプロジェクト計画に参加しています。当社が開発・設計・制作に携わっているものとしては、宇宙から帰還する際の自動着陸技術の確立をめざした小型自動着陸実験機などがあります。
 世の中の趨勢は、事業の多角化のほうに向かっていますが、そもそも富士重工は総合輸送機器メーカーとして歩んできた企業であり、すでにその機能、素地を備えています。今後は、各事業部門の横の連携を強め、技術を総合化していく中から、新しい事業機会を見出していきたいと考えています」