ずっと『音』と『振動』の
メカニズムを追求してきた。
コンサルティングも、航空・宇宙も。
家電製品や自動車、大規模プラント、さらには宇宙開発まで。世の中に存在する工業製品・設備・施設のほとんどが、騒音や振動に対する技術を一つの課題としている。これらはすべて防音や防振という課題をクリアして、実際のカタチになったものなのである。防音・防振の技術はそれだけでは決してメインの存在にはならないが、他の技術開発の基礎を支えている重要な位置づけにある。そう言っていいだろう。
当社は、こうした騒音・振動の課題にトータルに応えているエキスパート企業だ。クライアントから寄せられる一つ一つの案件に対して、最適なコンサルティングを実施。また、多彩な実験データをもとに、消音器をはじめとする各種の騒音・振動防止装置、試験装置などの設計・製作に取り組んでいる。とくに航空関連では豊富な実績があり、航空防音設備、ジェットエンジン運転設備は、当社の事業の中でも大きな柱へと育っている。そして最近では、宇宙開発の分野でも技術ノウハウを発揮。防音・防振という側面から、人類の夢を支えている。
CS移動体送受信アンテナ装置の開発
宇宙に関連する技術の中でも、私たちの生活に身近な存在である衛星通信システム。
この新しい技術としては、中継車などの移動体が走行しながら、
車載のCSアンテナと通信衛星との間でダイレクトにデータの送受信を行うシステムが確立しつつある。彼は、移動体の振動や動きをとらえ、アンテナを衛星と正対させる制御技術の開発を担当している人物だ。
移動するアンテナを
衛星とダイレクトに結ぶ
現在、「CS移動体送受信アンテナ装置」の開発を担当しています。これは、放送局やメーカーとの共同で進めているプロジェクトで、走行中の車載CSアンテナと通信衛星との間でダイレクトにデータの送受信を行うためのものです。マラソンなどのロードレース移動中継、船舶からの移動CS伝送、あるいは地上回線の設置が困難な地点からのCS伝送などをターゲットにしています。そもそも宇宙には4度おきに各社の衛星が並んでいますから、常にアンテナの方向を正しく向けていないと、他の衛星に迷惑がかかってしまいます。そのため、これまでのマラソン中継では中継車から一旦、地上局に伝送し、そこから衛星へとアップリンクしていました。CSアンテナ移動体送受新装置があれば、いつでも、どこでも、走行しながら通信衛星との送受信が可能になるため、放送界に画期的な技術を提供することになります。
センサ技術と
姿勢安定化技術
この開発活動の中で私が主に担当しているのは、CSアンテナ移動体送受信装置の中核ともいえる、防振制御部分です。自動車や船舶などの移動体は動き続けていますから、その振動、姿勢の変位に合わせて、アンテナの姿勢を常にCSに向け続けることが必要になります。しかも、アンテナの角度誤差は約±1度以内であり、容易にクリアできるレベルではありません。この精度を満足させるために、ジャイロセンサ、ヌルセンサ、磁気方位センサ、GPSセンサなど、複数のセンサ技術を活用しています。さらに、これらのセンサから得た情報をもとに、実際にアンテナを、モーターを使って動的に駆動する姿勢安定化技術を駆使しています。合計5軸のモーター制御を動的に行っていますが、アンテナの姿勢安定化のために3軸の制御を行い、またアンテナを目標とする衛星に向けるために2軸の制御を行っています。
移動体の動きを 瞬時に正確に反映させる
この装置の技術的なポイントは、移動体の動きに合わせてリアルタイムで正確に制御する点にあります。ただ、センサや駆動部分にはいろいろな種類があり、得意分野と不得意分野を持っています。たとえば、ジャイロセンサは動的な姿勢変位の検出は得意ですが、静的な変位には鈍感です。また、一般に知られているようにドリフトがあり、姿勢安定制御のために補正の必要が出てきます。こうした特性を見極め、問題点をクリアするために、実験室での振動試験、センサ単位での試験をそれぞれ行ってきました。試験の結果を評価し、改良を施し、またシステム全体を見渡してどのような改良を施すのが最良であるかを決めていく作業は、技術者として魅力があります。そうして数多くの問題点を一つ一つクリアすることができ、最近では一般道や高速道路を走行して性能を評価できるレベルに至っています。
宇宙ステーションをめざした実験装置の設計
これまで人類の夢として語られてきた宇宙ステーションも、
もう2年後には現実のものになろうとしている。
現在は、打ち上げ前に地上で試験・検証を行う実験用装置の設計・製作が、急ピッチで進行中だ。
この実験用装置に携わっているのが彼であり、
彼の仕事の延長線上の、そう遠くないところで世界的なプロジェクトが待っている。
ラックインテグレーションのための
実験装置
国際協力のもと、2000年6月に宇宙ステーションを打ち上げる計画が進んでいます。ここでは宇宙の環境を利用した様々な実験が行われる予定で、そこには日本の施設も設置されます。現在は、実験に利用される実験装置、それを搭載する実験ラック、実験ラックを収納するとともに人の作業空間となる与圧部、宇宙空間にさらされた状態で実験を行う曝露部など、JEMを構成するものがそれぞれに開発・製作されている段階です。そうした中、当社では「JEM実験装置ラックインテグレーション」を手がけています。宇宙用実験装置は、事前に地上で様々試験・検証を行っておく必要があります。ラックインテグレーションとは、実験装置を搭載した実験ラックの状態で試験・検証を行う一連の作業のこと。私もそのプロジェクトに参加し、各装置の設計支援を担当しています。
機械、流体、電気など、
幅広い技術を結集
ラックインテグレーション作業には、GSE(Ground Support Equipment=地上支援装置)と呼ばれる、各種の装置類が必要になります。具体的には、宇宙の実験ラックに実験装置を搭載する際に使われるハンドリング装置や、実験装置が使用するガス・水・電力などのリソースを供給する装置、騒音・振動状態を測定する装置、あるいは実験装置を遠隔で監視・制御する通信装置などがあります。このうち、私が手がけているのが、ハンドリング装置と各種リソースを供給する装置です。こうした装置の設計・製作には、機械・流体・電気まで、様々な分野の高度な技術知識、広範囲なエンジニアリング力が要求されます。先輩方に助けてもらいながら、勉強しつつ、何とか仕事を進めています。
1997年夏までに、
GSEが続々と完成
もう一つ、宇宙関連装置の特徴として、各種の装置が並行して開発されているため、仕様変更が多いという点があげられます。また、クリーンな環境に対応するために、清浄度などの品質管理が厳しいという面もあげられます。それでも、宇宙ステーションは世界的なプロジェクトとして、2年後のJEMの打ち上げ計画まで固まっているわけですから、迅速に細やかに対応し、着実に開発を進めていかなければなりません。そのため何かと苦労も多いのですが、それだけに装置が完成したときには大きな充実感があります。現在までに、実験ラックに4種類のガスを供給する装置(ガス供給装置)、実験装置を実験ラックに搭載するための装置(ペイロードリフター:ラックインテグレーション作業用ではない)の2つが完成しています。さらに、今年の夏前までに、多くの装置が順次完成する予定になっています。
電磁浮遊炉の防振メカニズムの確立
宇宙の無重力空間を想定した環境を地上でつくり出し、
そこでの実験から各種の試験データを得、研究に役立てていく。
宇宙が少しずつ身近になってきた背景には、こうした活動の積み重ねがある。
彼は、微小重力環境下での半導体材料の高温物性を得る試験装置に取り組み、
電流コイルを用いた防振の新しいメカニズムを生み出した。
微小重力環境下での、
半導体材料の高温物性
航空機、ロケット、スペースシャトルなどを利用した微小重力空間での実験・訓練はよく知られていますが、同じような環境が日常で得られる施設も数多くあります。たとえば、北海道の地下無重力実験センターには、実験装置を自由落下させる地下700mの縦穴に施設があります。約10秒間にわたって10-5Gの微小重力環境が得られるため、いろいろな研究機関が毎日実験に訪れています。私が手がけている「電磁浮遊炉」も、ここの微小重力環境を利用した実験装置の一つ。微小重力環境下で、半導体や金属材料の高温物性(密度、表面張力、粘性率など)を測定することを目的としています。具体的には、シリコンや金(直径5〜10mm程度の球)などを試料として用い、それを電磁力で浮遊・溶融させます。そして、その状態を毎秒200コマの高速度ビデオカメラで観察し、物性測定に必要な画像データを得るという方法です。
10mmの振動を、
電流で制御する
微小重力環境下で測定することが目的であるため、試料には振動がないことが条件です。ところが1G環境であらかじめ浮遊させた試料は、落下後、微小重力環境への変化によって振動が発生してしまいます。この装置で最も求められているのが、溶融した試料の温度制御とこの振動制御です。振動を抑えるために考えたのが、試料が入っているガラス管(直径約25mm)の周りにコイルを巻き、電流を流す手法でした。試料の浮遊・溶融にはそれぞれ専用のコイルが装備され、最大500Aの高周波電流を流すことができます。1G環境下で浮遊している試料は、落下と同時に鉛直方向に10mmほど振動しますが、コイルに流す電流の大きさを変えることによって、振動を物性測定に耐えうるレベル(1〜2mm)にまで減衰させることができます。こうした制御の試験を事前に何度も繰り返し、そして実際の落下試験を行うわけです。
世界にも例のない
新しい試験装置が誕生
装置の主役ともいえる直径わずか10mm、重さ1.2gの小さな球が、およそ10秒ちう短い落下時間の中で確実に任務を果たすために、周りには脇役を演じる重要な機能がたくさん盛り込まれています。試料位置や試料温度を検出する位置センサと温度センサ、真空環境を作り出す真空装置、コイルを冷却するための冷却装置、試料を観察する観測用カメラ、コイルに電流を流すための高周波電源とそのためのバッテリー、さらにこれらの各装置を制御するコンピュータなどがぎっしりと詰まっています。そのため、実際に落下させるときの装置全重量は約1tにもなります。一つ一つがなくてはならないものばかりであり、これらの技術が融合することで、世界にも類のない新しい装置が誕生したわけです。これによって、半導体の物質のまだ未知の性質が解明され、今後の研究に応用されていくことになるはずです。