広域性、同報性、耐災害性、多元接続性など、
衛星通信ならではメリットを生かしたサービスを提供。

1985年、Mグループ全28社の出資により、グループの総力を結集した形で誕生した宇宙通信。すでに通信衛星は2つを保有し、多彩なサービスを提供している。そして、97年6月には国際通信機能を備えた新衛星が打ち上がる予定で、さらにサービスの幅を拡大していこうとしている。

衛星通信サービスとは

衛星通信には、誰もが大きな可能性を感じているといっていいだろう。その可能性は、従来の地上系通信にはない、衛星通信ならではの数々の優位点に秘められている。一つの通信衛星で日本全土をカバーするだけの「広域性」、一カ所から多地点の地上局に情報を配信する「同報性」は、衛星通信のメリットの代表的なものである。また、地上局の追加、車載局・可搬局の利用といった「柔軟性」に富み、地震など地上の災害の影響を受けにくい「耐災害性」も企業や自治体などから注目を集めている。このほか、「大容量性」「多元接続性」などまでメリットは多く、宇宙通信ではこうした特徴を生かした数多くのサービスを社会に提供している。

次々と誕生する新サービス

取材現場と放送局を結ぶSNG(サテライト・ニュース・ギャザリング)、授業や講義の全国への配信、災害に強いネットワーク構築、さらにクローズドサーキット、オンデマンドによるビデオ配信など、自治体や電力会社に向けた災害に強いネットワークの構築など。宇宙通信では、これまでにさまざまなサービスを提供してきた。最近の例では、96年に衛星電話サービスを、今年1月は通信衛星とパソコンとを直結させたDirec PCサービスを開始した。さらに6月には新しい衛星を打ち上げる予定。これを利用した衛星デジタル他チャンネル放送・DIREC TVも秋にはスタートする見通しで、次々と新しいサービスを生み出している。

97年6月に打ち上げ予定の新衛星

宇宙通信にとって3つの通信衛星となる新衛星。156Mbpsの高速大容量通信を可能にし、日本・北東アジア・東南アジア・ハワイの4本の固定ビームと可動ビームを搭載。柔軟なビーム間接続によって、アジア・太平洋地区全域での国際衛星通信を行う。また、広域放送型サービスにも対応し、ハワイの基地局を経由して米国の衛星へと接続することもできる。すでに衛星本体の製造も終了し、打ち上げの準備も順調に進行中。現在は検査や調整などのプロセスに移り、予定通り今年6月に宇宙へと飛び立つことになっている。

またひとつ、
“Direc PC”という名の
新しい通信インフラが誕生した。

“Direc PC”。これは、宇宙通信が97年1月にスタートした新しいサービスだ。簡単に言えば、通信衛星から送信された動画や音声などのデータを、直接パソコン端末で受信できるという画期的なシステム。12Mbpsという電話回線のおよそ100倍の伝送速度を持つ衛星通信のメリットが、低コストで得られること、そして地上のLANやWANなどのコンピュータ・ネットワークと融合できることなどから、衛星通信の新しい利用形態として注目を集めている。

最大12Mbpsの高速伝送が可能に

 Direc PCの第一の特徴は、LAN、WAN、インターネット・イントラネットといった地上のコンピュータ・ネットワークに、高速性・同報性といったメリットを持つ衛星通信網の機能を組み込める点にある。これまで時間がかかっていた大容量のデータの受・送信も、最大12Mbpsという圧倒的な速さで行えるようになった。Direc PCのシステムを活用すれば、企業の本社で作成した社員研修などのビデオ映像が、各拠点の一台一台のパソコン画面上で、ライブで視聴できるわけである。

低コストで、手軽に衛星通信を利用

 従来、企業が衛星通信システムを導入するには、送信局や受信局の設置などに莫大な投資が必要とされていた。Direc PCでは、ユーザーがISDNなどの地上回線を利用して宇宙通信のNOC(ネットワークオペレーションセンター)まで送りたいデータを送信。その後、NOCがユーザーに代わって衛星にデータをアップリンクする仕組みになっている。また、受信側では、アンテナ、インターフェイスボード、ソフトウェアで構成されるDAK(Direc PC Access Kit)を導入するだけで、設備投資が少なく、運用面でもメリットが大きいサービスといえる。

用途も可能性も広がり続けている

 現在、Direc PCの利用は、多数の拠点を持つ企業の社内研修、大量のドキュメントの他拠点への配信、中古車オークションなどが主体。今後は、容量の大きいソフトウェアなどのバージョンアップ、あるいは電子新聞などの記事内容をリアルタイムで更新して最新情報を提供していくことにも利用されることになるだろう。Direc PCサービスは、今スタートを切ったばかり。しかも、通信インフラの一つであり、新たなアプリケーションを開発することでその用途は限りなく広がっていく。

Direc PC事業の立ち上げに関わった男たち

95年3月、アメリカでの調査が、
プロジェクトの第一歩になった。

 今から2年ほど前、上司とともに、調査でアメリカに出張したんです。主な目的は、アメリカにどんな衛星ビジネスのサービスがあるのかを把握することでした。ニュース配信の会社を中心にまわり、衛星利用の情報を収集。最後に衛星の大手メーカー・ヒューズ社を訪れ、ここでDirec PCという新サービスの存在を知りました。当社では地上ネットワークと衛星通信との融合を探っている最中で、Direc PCはまさに私たちが求めていたサービスだったのです。
 帰国後はすぐに報告書を提出。Direc PCサービスを手がけるための準備が始まり、95年の暮れにはヒューズ社から日本でのDirec PCサービス権を獲得しました。サービスに必要なNOCの設備体制を整え、コンピュータ・ネットワーク側のアプリケーションを担当する国内のSI企業とパートナーシップを確立。96年6月から、10数社のパートナーやユーザーと一体となりながら、実験を繰り返してきました。そして97年1月20日、アメリカでの情報収集から2年弱というスピードで、正式なサービス開始にまで至ったわけです。
 ただ、Direc PCは、今後の展開が大切だと思っています。事業として無事にスタートしたからといって、何も変化を加えなければ2~3年で陳腐化してしまうでしょう。いろいろな用途が開発され、本格的に活用するようになるのはまだまだこれから。直接現地に赴いてアメリカでの活用事例なども収集し、日本に適した形で紹介することも積極的に行っていこうと考えています。

新しいシステムの確立には、
試行錯誤がともなっている

 95年10月からDirec PCに関する技術サポートを担当しています。それまでは、管制局での衛星の軌道制御や、衛星のサポートのための地上ネットワークの構築など、コンピュータやネットワークに関する仕事に携わってきました。ユーザーの地上局の設置といった衛星通信そのものの技術サポートは同じネットワーク本部の技術部で専門に手がけていて、私の担当はDirec PC特有のコンピュータ・ネットワークとのつながりの部分の技術サポートということになります。具体的には、個々のユーザーごとのサポート、SI企業と一体となったコンピュータまわりのシステムの提案、インターフェイスなどの技術的なサジェスチョンなどが主な仕事です。
 Direc PCサービスは日本で初めてのビジネスでもあり、壁にぶつかって手探り状態になったこともありましたね。同じメーカーの同じパソコンでも、アメリカでは正常に動作していたはずなのに、日本ではなぜかうまく動作しないことがあったんです。これは、それぞれのマーケットごとにパソコンの細かな仕様が異なっていたためで、ユーザーとの打ち合わせの中から得た情報がヒントになって原因が究明できたんです。当初はソフトに異常があるのか、ハードに問題があるのか、もっと微妙な相性の問題なのか、全く糸口がつかめずに、1カ月ほど試行錯誤を繰り返していましたね。こうしたコンピュータがらみの課題を一つ一つクリアして、日本のDirec PCサービスが始まったわけです。